北極のペンギンたちについて

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アイドルの概念とアイドルの語るアイドル論が好き

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“松村北斗”という多面体を巡る『ガラス花』の構造的な面白さ

松村北斗”という人間の生き様が大好きなオタクの1人として、初のソロ曲として『ガラス花』を受け取ったこの感動を140字にまとめることはできそうになかったのでブログにしておくことにした。

アイナさんについて詳しい訳ではないのでズレている部分もあるかもしれないが、思うままに1オタクが書き殴った感想として受け取ってもらえれば幸いである。

 

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誰しも色々な側面を持っているものだとは思うが*1、北斗さんはとりわけその多面性をダイヤのカットのように輝かせる素質と技術を持っている方だと思う。

アイドルとしてステージ上で見せる顔、役者としてカメラの前で見せる顔、ラジオのパーソナリティーとして発する楽しくて仕方がないという声。全く違う側面をいずれも嘘くささなしに完全に並立させている。

誠実で透き通った真っ直ぐな綺麗さを抱えたまま独特な角度をつけて世界を観察することのできる稀有な人だからだろうか。自分の中にあるものを真実のまま増幅させる技術が磨き抜かれているからだろうか。理由を完全に言語化することは到底不可能そうなのでひとまずこの辺りにしておくこととするが、ともかくとして彼のもつ多面性はいずれも芯ある輝きを放っており、それこそが“松村北斗”という人間の大きな魅力になっていると思っている。

だから、初めてのソロ曲のテーマが“松村北斗という作品”であること、そして多面性がキーワードになっているらしいと知った時は飛び上がって喜んだ。

 

ガラス花の好きなところはいくらでも語れそうだが*2個人的に最も好きなのは2つの意味で構造的な面白さがあるということである。

 

 

構造的な面白みの第1の点は“役者・松村北斗”の共演者が書き下ろしていることに由来する。

ダイジェスト版のメイキングでは“松村北斗という作品”の意味する全容がどのようなものなのかよく分からなかったが、メイキング本編を確認し曲をフルで聴いて把握することができた。

「夏彦青年を演じていた松村北斗」こそが撮影現場でアイナさんが見た“松村北斗”のすべて

スクリーンで見ることができるのは「カメラの前で彼が夏彦青年として生きた姿」であるが、今回のガラス花という作品ではそこから一歩カメラのアングルを引くことで見えたものが切り取られているのだと受け取った。

役者としてのお仕事について、北斗さんが「自分と似ている部分を探りながら演じる」という趣旨のことを仰っているのをしばしば聞く。*3

音楽と人(2023.9.13p)でも

たまに撮影していて、演技しているけど素で喋っているような感覚になる時があるんですよ。特に岩井さんの作品はそういうのが強くて。自分のようで自分じゃないし、自分じゃないようで自分でもある。

と言及されているが、これはまさにそんな彼の役者としてのあり方を端的に表現したものだと思う。そしてここに続けて「ガラス花もそのような曲である」とも語っていた。

「自分であって自分でない、自分でないようで自分である」。松村北斗という多面体の一面に存在する“松村北斗”ではあるが、実際にこの世に存在しアイドルとして・役者として生きている“松村北斗”そのものではない。

異なる意味での“自分”の揺らぎの狭間の、まさにその現場を見ていた人が“松村北斗”そのものをテーマに曲を書くという構造になっているのである。演じる人にしか生まれない稀有な場面を意外な方法で写しとるという面白みを強く感じる。

 

第2の点は、ガラス花の場面設定に由来する。

物語から想像される夏彦青年と松村青年は別物であると感じている。完全に個人的な解釈に過ぎないが、ガラス花が書いているのは、「撮影現場において北斗さんが夏彦青年の人生を生きたその姿から推認される“松村北斗という多面体の一部”(=アイナさんにとっての松村北斗)から更に社会的な文脈を取り去った剥き出しの人物像に、夏彦青年が置かれていた場面設定の一部をスライドさせた場面」ではないか。(「松村北斗の一側面が仮に夏彦青年が置かれたような状況に陥った際にどんな言葉を発するのか」というifを曲にしたような感覚)

ここで第1の点として先に述べた内容を補助線にしていくと、夏彦青年という人間に松村北斗という人間の一側面を共鳴させていた現場で見出し取り出した松村北斗像を、改めて夏彦青年の場面設定に差し込むことで生まれた作品であるという構造が見えてくる。

(しかもそれがアイドル松村北斗としてリリースするシングルのソロ曲となる)

こんなにも複雑な構造を5分42秒の中に詰め込むこと。松村北斗という多面体を表現するのにこれほどトリッキーで、しかしピッタリな方法が他にあるだろうか。

ソロ曲を作ると聞いた時には想像だにできなかったけれど、誠実な彼が大切に繋いだご縁が想像を遥かに超えるかたちで結実したことが嬉しくてたまらない。

 


北斗さんに出会って以来ずっと、数えきれないくらい沢山の宝物となる作品を受け取らせていただいている。未来のことは分からないが、これからもこんな幸せな時間が続いたら良いなとも思っている。

それでも、今日ガラス花が私にもたらしてくれた感動は後にも先にも無二のものとなる確信がある。

松村北斗というアイドルの初のソロ曲、彼が敬愛して止まない岩井監督がメガホンをとった『キリエのうた』という作品、そしてその現場での彼を誰よりそばで見ていた美しい言葉を紡ぐアイナさん。この瞬間にしか交わり得なかった3つの交点が『ガラス花』というかたちになり私たちの手元に届いたこの幸運を、この曲を大切に大切にすることでゆっくりと噛み締めたい。

*1:ノキドア最新回でもその話をされていたので勝手にタイムリーに思えて心が躍った ちょろいオタクなので常に勝手に楽しい

*2:美しく新鮮ながらも素朴な優しさを持つ歌詞、言葉と音楽が絡み合うあり方、北斗さんの声質が最大限に生きるディレクション、等々

*3:今回のキリエのうたは監督による当て書きの部分があるそうなので、尚更役の人生と彼自身の内面が共鳴する場面は多くあったかもしれない